土曜NHKドラマ ひきこもり先生 シーズン2を見て①〜生徒たちが「言えなかったこと」とは?~

2022年12月に放送された土曜NHKドラマ、『ひきこもり先生 シーズン2』をご存知でしょうか?
今回は、シーズン2前編「どうでもよくない!」・後編「言えなかったこと」のあらすじ紹介と、学校と生徒が抱える課題、主人公の上島陽平が果たした役割について考えます。

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<strong>森岡</strong>
森岡

神奈川県在住 30代社会人
容姿きっかけで部活でいじめられ、中学二年から卒業まで不登校を経験しました。

不登校の経験をプラスに変えて、気楽に人生を過ごしてもらいたい。
自分の経験を今困っている不登校生と保護者に届けたいと思い、不登校支援を始めました。
不登校経験者へのインタビュー、コラム記事の執筆を2年以上続けています。


全5話のシーズン1が好評だったのを受け、
シーズン2が2022年12月17日(前編)・24日(後編)に放送されました。

『ひきこもり先生』は、佐藤二朗さんが演じる上島陽平が主人公のドラマです。
彼自身が元ひきこもりでしたが、周囲の協力を受けながら社会へと復帰していく中で、
不登校になってしまった中学生たちと非常勤講師として関わるようになります。
陽平は自身の経験を生かしながら、生徒らが抱える様々な問題に向き合うお話です。

※当サイトでは、過去2回にわたりシーズン1の記事を掲載しております。

『ひきこもり先生 シーズン2』あらすじ

『ひきこもり先生 シーズン2』は登場人物ごとに抱えているテーマがあります。
今回は、寺田心さんが演じる松田篤人に焦点を当てたあらすじです。

前編「どうでもよくない!」あらすじ

シーズン1終了後から2年。再びステップルームの外部講師として招待された陽平は、体調不良の教諭に代わり、3-Aの臨時副担任も勤めることになりました。

市内で発生したホームレス襲撃事件に、学校の生徒が関わっている事が発覚。学校側は世間体を気にして、3年生の修学旅行を取りやめることになりました。

篤人はホームレス襲撃の現場にいました。このことが学校に把握され、先生たちに呼び出されます。途中で篤人の携帯が鳴りますが、出られず。代わりに電話に出る陽平。
「助けて、篤人」という女性の声が聞こえ、陽平は急いで篤人を家に帰らせます。

そこで陽平は、篤人が病気の母親を介護するヤングケアラー」だということを知ります。
「だって、誰も助けてくれなかった」という篤人の一言を聞き、陽平は篤人を抱きしめます。

陽平に諭された篤人。ホームレス襲撃事件に関わっていたことを3-Aで謝ります。
「ホームレスを襲っているのを見て、せいせいした
そう思っちゃった時点で、襲撃した人たちと同じなんだ」と。


後編「言えなかったこと」あらすじ

本当は修学旅行に行きたい
生徒たちにはそんな隠された思いがありました。
それを知った陽平は先生たちに「修学旅行、やりませんか」と提案します。

陽平は教育委員長に直談判し、許可を取り付けたものの、学校が開いた保護者への説明会で意見が割れ、結局中止に。

陽平は3-Aの生徒たちに謝りますが、篤人は「話を聞いてくれてありがとう」と生徒たちを代表して感謝の言葉を述べます。

その後、陽平に連れられてホームレス支援の現場に行った篤人は、路上生活をする若者たちの実情を知りました。彼らの境遇、苦しみ目の当たりにした篤人。

自分は頑張っているのに、ホームレスの人や、ステップルームの人たちは怠けているだけ。そう思っていた。けれど違う。気付いた。皆苦しいんだ」と考えられるようになりました。

なぜ「怠けている」「努力していない」という偏見が生まれるのか?

作中で篤人は、ステップルームの生徒やホームレスのことを「怠けている・努力していない」と繰り返し見なしています。何故、そのような認識になったのでしょうか?

篤人が所属する3-Aは成績優秀者が揃い、学校から大きい期待をかけられています。
成績が低い順にテストが返却されるなど、学力至上主義での評価が当たり前。

だから、自分のやりたいように過ごしているステップルームの生徒を見て、
自分たちは学校の期待に応えようと頑張っているのに、彼らは怠けているだけだ
という気持ちが生まれてしまいます。

篤人は独りでお母さんのお世話をこなす「ヤングケアラー」です。
ヤングケアラーについて – 厚生労働省

篤人はお母さんの世話と学校からの期待を一身に背負って、忙しなく毎日を過ごしています。
彼は生活出来ていると考えていますが、実際には余裕がなくいっぱいいっぱいでした。

自分はなんとかやれている。だから平気だ。普通なんだ。
そうやって自分を奮い立たせる言葉が、いつしか頑張っていないように見える人に対して、自分はこれだけ頑張っているのに、彼らは怠けている」と思わせることになります。
同時に、普通でなくなることへの恐怖も芽生え、お母さんのことが学校に知られてしまうことを恐れます。

「彼らは怠けている」という気持ちが、ホームレスのような社会的弱者を軽んじてもいいと、一方的な決めつけに変化してしまいます。だから人に対して「やってはいけないこと」を飛び越え、他人に暴力を振るってしまいました。

森岡
森岡

劇中ではホームレス襲撃事件の犯人は明らかにされませんでしたが、生徒たちの不満が社会的弱者にぶつけられ、発散の対象になったのではないでしょうか。

自分たちに降りかかる理不尽、学校からの勝手な期待。やり遂げて当然、という重圧。
何とかしなくちゃ、頑張らなきゃ。出来なかったら、努力が足りない自分のせい。
そんな自己責任論が、ステップルームやホームレスのことを「怠けている、努力していない人」だとレッテル張りする要因です。

それぞれの苦しみに気づくこと

本作終盤で、篤人と友達たちは陽平に連れられ、ホームレス支援の現場で炊き出しを手伝います。
その時、同年代の若者に「どうしてホームレスになったのか」と聞きますが、彼は寂しそうに笑ったあと、理由を教えてくれます。

会社が倒産し行き場がなくなった。家族に知らせることが出来ず、実家に帰れずじまいになっているうちに、路上生活をすることになってしまった、と。

森岡
森岡

自分は頑張っているのに、ホームレスの人や、ステップルームの人たちは怠けているだけ。そう思っていた。けれど違う。気付いた。皆苦しいんだ」と篤人たちは気付きます。ホームレスたちの実情を聞くことで、彼らへの理解が深まり、彼らは怠けているという認識を改めることになるのです。