増え続ける不登校生徒と足りないフリースクール:何が問題?

近年、不登校生の居場所として存在感を増しているフリースクール。
学校に通い、教室に入ることが難しい子供にとって、自信を取り戻す大切なきっかけになっています。

こちらの記事のように、フリースクールに通うことで前向きに生きれるようになった例は少なくありません。

一方で、実際にフリースクールに通っている生徒は全国小中学校の不登校生の約10%に留まっています。
様々な要因がありますが、代表的なものにフリースクール数の不足や財政上の厳しい問題が潜んでいるようです。

不登校生徒数が前年比から22.1%の大幅増

このサイトでも何度も取り上げていますが、不登校生徒の数は年々増加傾向にあります。

病気や経済的理由などではなく学校を30日以上欠席している不登校の小中学生が増加の一途をたどっている。令和4年度の文部科学省調査では29万9048人で過去最多を更新、前年度から22・1%の大幅増となった。

急拡大の不登校、フリースクール空白地帯で孤立する子供たち – 産経ニュース (sankei.com)

不登校生徒の居場所として挙げられやすいのは「フリースクール」ですが、フリースクールの数が不足している地域が多くあります。そのため、不登校を原因に居場所を失う子供も増えてきています。

地域に全くない空白地帯もあり、教育機会を失い孤立を深める子供が少なくないようです。
特に都市部に比べて地方で足りていない実情があり、運営の質もまちまちであると言えます。

「フリースクール全国ネットワーク」(東京)の江川和弥代表理事(59)によると、フリースクールなどに通う不登校の小中学生は、全体の1割強とみられる。同団体が把握しているスクールは全国で約500カ所程度で、多くが都市部。「子供の意思を尊重した運営ができていない施設もあるなど、玉石混交」という。

急拡大の不登校、フリースクール空白地帯で孤立する子供たち – 産経ニュース (sankei.com)

フリースクールの設置数が増えない原因

さて、不登校児童数が増えていく一方にも関わらず、フリースクールが足りていない状況が見えてきましたが、設置数が増えない要因は一体どこにあるのでしょう?

フリースクールが増えない原因の1つに、運営が成り立たないから増やそうにも増やせない現実があるようです。

運営資金の厳しい現実

 公教育に代わる役割を求められるフリースクールだが、その運営は苦しい。全国の85団体でつくる「フリースクール全国ネットワーク」(東京)の代表理事、江川和弥さん(59)は「スタッフは薄給で、熱意だけで運営を続けるのは難しい」と実情を語る。

 求められるのは公的支援だ。鳥取県は20年度に補助制度を設け、市町村が行う授業料補助の取り組みを後押しする。茨城県も21年度に住民税非課税世帯などへの授業料補助を始め、昨年度は12世帯13人が利用。運営団体への補助も行う。

 ただ、全体でみると支援は十分とは言えない。福岡県は、不登校の子どもを支援するフリースクールを対象に年間最大200万円を補助するが、赤字額の2分の1などにとどまる。九州・山口の他県は補助制度を設けていない。

授業料などは1人当たり月4万円。昨年度は県から年間200万円の補助金を受けたが、経営は楽ではない。生徒が増えれば学習を支えるスタッフが足りず、学校に通う子どもが増えると、収入が減って人件費を賄えなくなる。ジレンマを抱えながらも、「すがる思いで居場所を探す大勢の親子のため」と踏みとどまる。

不登校の子学ぶ「フリースクール」役割増しているが…「公的支援不足」と悲鳴:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

記事のフリースクールでは家庭の経済事情を鑑みて、無理のないラインの月謝料を決めています。
福岡県は補助を行っているようですがそれでも足りていないことから、運営資金は深刻な問題です。

実際の全国的な統計データも参照してみましょう。労働政策研究・研修機構(JILPT)の『フリースクール・サポート校等における進路指導・キャリアガイダンスに関する調査結果』を読むと、
スタッフの「悩みや困りごと」では「団体の財政」が42.3%(p42)と一番高く
その背景として「財政上の支援なし」と約50%が回答している(p26)」ことから、
運営していく上で常に資金の問題がつきまとっていることが伺えます。

「フリースクール」を理解できない政治家

運営には厳しい現実があるにもかかわらず、自治体によってはフリースクールへの理解不足から、
存在を軽視するような発言が話題になりました。

例えば、2023年10月の東近江市長の発言は各方面で波紋を呼びました。

フリースクールへの支援が国家の根幹を崩す?

滋賀県東近江市の小椋正清市長がフリースクールへの公的支援に対し、「国家の根幹を崩しかねない」などと発言したことを巡り、抗議が相次いでいる。昨年度、県内の公立小中学高校で、不登校になった児童生徒数が過去最多の4182人に上り、フリースクールなどの多様な教育機会の確保が求められる中、各自治体でも支援のあり方について意見が分かれている。

「間違った認識。撤回して」抗議相次ぐ、不登校対応は自治体で差…フリースクール発言問題:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

市長自身の不登校への理解の無さや、「既存の教育から逸脱すること」への恐怖感からこういった発言をしたと考えられますが、実態とあまりにもかけ離れています。

更に、自分の街にフリースクールが存在していることすら知らない首長が、教育現場に対してこういったコメントをすること自体、まだまだ不登校問題への関心が低いと言わざるをえません。
小椋正清市長はこの後、関係者からの猛抗議の末に撤回し、不登校支援に力を入れることを表明しています。

支援のあり方についての議論の進展が期待されます。

最近の自治体支援策

ここまでフリースクールの運営事情の厳しさを確認してきました。話題の中で茨城・鳥取・福岡の補助について軽く触れられていましたが、自治体の支援策について深掘りしてみました。

とりわけ興味深いことは、各家庭に支援金を手渡して間接的にフリースクールを支援する東京都の例と、
自治体がフリースクールを認証し、直接支援しようという長野県のアプローチの違いです。

東京都の支援が話題に

2024年1月26日、東京都はフリースクールに通う家庭に助成金を渡すことを決定しました。

フリースクールに通う小中学生にスクール利用料への助成として1人あたり月2万円を支給する事業を、東京都が新年度に本格実施する。不登校の子どもが増えているため、家庭の経済的負担を軽減して子どもたちの多様な選択につなげる狙いがある。

フリースクール授業料、1500人に月2万円助成案 東京都が発表 [東京都]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

実は以前から、都による当事者(フリースクールに通っている人)の実態調査アンケートへの協力金として月2万円、年額24万円が手渡されていました。これを都の支援制度として本格化させたものです。

1500人という対象人数は、このアンケートに答えていた人数に私立や国立学校の不登校生の数を上乗せして試算した数字です。

このアンケート調査協力金の支給を受けていたのは、年間約1400人だという。この実績をもとにして、来年度からの助成金の対象者は約1500人と東京都は見積もっている。

「アンケート調査協力金は公立の小中学校在籍者だけを対象にしていましたが、今回は義務教育段階の児童生徒を対象にするということで、私立と国立学校の在籍者も対象にするので100人増やしました。100人しか増えないのは、そもそも私立や国立だと不登校自体が少ない」(青木氏)からだという。

不登校が過去最多、自治体「フリースクール利用者支援」東京都は月2万円助成 学校至上主義から脱皮し、学ぶ権利を保障 | 東洋経済education×ICT (toyokeizai.net)

長野県の認証型フリースクールの取り組み

一方、長野県では信州型フリースクール制度の創設が検討されています。これは民間で運営されてきたフリースクールを公的に支援するため、「認証制度」を取り入れようとする取り組みです。

これまでフリースクールは、利用者からの月謝などで運営費がまかなわれていて、財源が安定していないといった運営上の課題がありました。

この認証制度は、一定の要件をみたしたフリースクールに、県が補助金を出すなどし運営をサポートします。さらに、学校に行かない子どもたちが、自分に合ったフリースクールを見つけられるよう、情報サイトを立ち上げることなどを計画しています。

これまでも全国のいくつかの自治体では、フリースクールなどの民間の学び場に補助金などにより支援する取り組みはありました。しかし長野県では補助金を出すだけでなく、フリースクールの運営に関わる人たち同志の交流なども将来的に行っていく計画です。

学校外の“学び場”とつながり、新しい教育のカタチを作れるか?信州型認証フリースクール制度の挑戦| 君の声が聴きたい (nhk.or.jp)

これはつまり、フリースクールの活動を県が審査・認定し、補助金で運営をサポートする計画です。フリースクールごとにばらつきのある方針をある程度認めつつ、運営に関わる人同士のコミュニケーションの場も用意するようです。

行政との縦の関係だけでなく、フリースクール間の横のつながりを促進する狙いがあると言えます。